指摘の采配 — 採用・保留・不採用
外部監査(別ベンダーのAIによる、内部とは独立した第三者チェック)から返ってくる指摘は、内部だけでは見えない角度からのものが多く、価値があります。ただ、返ってきた指摘をすべて無条件で採用するかというと、それは別の話です。
指摘が「正しい」ことと、その指摘を「今のプロジェクトにそのまま反映すべきか」は、必ずしも一致しません。この章では、外部監査の指摘をどう捌くかについて書きます。
外部は文脈の全部を知らない前提で読む
外部監査は、内部の7体(7つの役職を持つ担当AI)が共有している運用方針・過去の議論の積み重ね・現時点でのプロジェクトの優先順位までは、必ずしも把握していません。渡された成果物と、その時点での説明資料をもとに判断します。
これは欠点ではなく、外部監査という立場の前提です。文脈を知りすぎていないからこそ、内部が見落としている盲点を拾えます。「+1」外部監査の役割でも触れた通り、内部7体は同じ設計思想の枠内で動いているため、枠の外の問題には気づきにくい構造があります。外部監査は、その外側から見る役割です。
ただし、文脈を知らないまま出された指摘の中には、「一般論としては正しいが、このプロジェクトの現在地には合わない」ものが混ざります。たとえば、まだ検証段階の仕組みに対して、本番運用を前提にした堅牢性を求める指摘が返ってくることがあります。指摘そのものは的外れではありませんが、今のフェーズでそこまでのコストをかけるべきかは、別の判断が必要になります。
「正しい指摘」と「今やるべき指摘」を分ける
ここで、指摘を三つに仕分けることにしました。採用・保留・不採用の三区分です。
採用は、指摘の内容が正しく、かつ今のフェーズで対応する価値があるものです。これは素直に反映します。
保留は、指摘の方向性は正しいが、今すぐ着手すると他の優先事項を圧迫するものです。理由と一緒に記録だけしておき、次のタイミングで見直します。放置ではなく、「後で扱う」という判断を明示的に下していることが違いです。
不採用は、指摘自体が現在の設計思想や目的と噛み合わないものです。外部監査が悪いのではなく、視点の違いによって生まれる自然なズレです。なぜ「3周」回すのかで書いたように、複数回のやり取りを重ねることで、こうしたズレは徐々に減っていきます。1周目の指摘が2周目にはすでに解消されているケースも珍しくありません。
三区分のどれに当たるかは、指摘の内容だけでなく、今このプロジェクトが何を優先しているかと突き合わせて決まります。同じ指摘でも、時期によって採用になったり保留になったりします。
不採用にも理由を記録する
三区分の中で、もっとも扱いが難しいのは不採用です。「指摘を無視した」ように見えかねないからです。
そこで、不採用と判断した場合は、必ず理由を記録するようにしました。「指摘の趣旨は理解した上で、こういう理由でこのプロジェクトには適用しない」という説明を残します。これは外部監査に対する礼儀でもあり、後から同じ指摘が別の形で戻ってきたときに、過去の判断を確認できるようにするためでもあります。
理由を書けない不採用は、実質的には「面倒だから流した」のと変わりません。理由を言葉にする過程で、本当に不採用でいいのか、実は保留にすべきではないかが見えてくることもあります。
最終的にどの区分にするかを決めるのは、人です。外部監査の指摘は判断材料であって、判断そのものではありません。この線引きがあることで、外部の視点を取り込みながらも、プロジェクトの目的から外れずに進めることができています。