標準パターン(土台作り型)の採用条件
黄金律の「7+1」は、常に3周フルで回さなくてもかまいません。前章ではその転換点を書きました。
では逆に、省略してはいけない局面はどこでしょうか。3周フルで回す標準パターンを採るべき条件を、ここで整理します。
「内部7役職に諮問し(意見を求め)、外部監査を受け、最大3周繰り返す」という手順を、この連載では標準パターンと呼んでいます。土台から積み上げていく形なので、土台作り型とも言います。時間も手間もかかります。それでも省略しない方がいい局面があります。
条件1:新規アーキテクチャの導入
アーキテクチャ(全体の骨組みや構造のこと)を初めて設計するとき、標準パターンを採ります。
新しい骨組みを作る場面では、1周目で出てくる粗(問題点)の量が多くなります。前例がないので、諮問に参加する全員が初見で対象を見ます。初見の目は見落としやすく、同時に「初見だからこそ気づく違和感」を出しやすい。その両方を引き出すために、1周目を丁寧に行います。
修正した後に2周目で整合を確認し、3周目で細部を押さえます。この3段階を踏まないと、1周目では見えなかった問題が後から出てきたときに、根本から設計をやり直すことになります。土台の段階で手を抜くと、後の修正コストが跳ね上がります。
条件2:既存の前提を覆す根本変更
これまで正しいとしてきた判断基準や前提を変えるとき、標準パターンを採ります。
前提が変わると、その前提に依存していた他の部分にも影響が波及します。その波及範囲は、変更を決めた時点では全部は見えていません。
たとえば、「判断は週1回まとめて行う」というルールを「必要なたびに随時行う」に変えたとします。変更点は一つに見えますが、「いつ諮問を始めるかの判断基準」や「複数の諮問が重なった場合の優先順位」にまで影響が及びます。こうした連鎖は1周では見切れません。
2周目・3周目で「修正後に何が変わったか」を順に確認することで、波及の範囲を拾い切ります。
条件3:前例のない領域での初挑戦
過去に同じ種類の判断をしたことがない場面でも、標準パターンを採ります。
前例があれば、「前回と似た問題が出るはず」という予測で確認の重点を絞れます。しかし初挑戦の領域では、そもそも何が問題になりやすいかがわかりません。
1周で固めようとすると、「見えている問題だけ解決して、見えていない問題を残す」結果になります。3周を重ねると、1周目では出てこなかった観点が2周目・3周目で現れてくることがあります。
問いは「3周で十分か」ではなく、「3周の中でいかに初見の問題を出し切るか」になります。前例がない分だけ、周回の価値が高くなる局面です。
条件4:不可逆性が高い決定
後から直しにくい、または直すコストが極端に大きい決定をするとき、標準パターンを採ります。
不可逆(後から元の状態に戻せないこと)な決定は、やり直しの余地がありません。「問題が出たら直せばいい」という前提で進めることができない。そのため、実行前の段階で問題をできるだけ出し切る必要があります。
この連載では、記事の公開・設計の大幅変更・外部との取り決めを「不可逆性が高い決定」の例として扱っています。一度公開したものは取り消せないし、大幅変更はあとから撤回するほうが影響は大きくなります。
3周回すのは、手を打てる最後の機会に問題をできる限り潰すためです。
条件5:影響範囲が事前に読み切れない変更
変更を加えたとき、「どこまで影響するか」が変更の時点では見えていない局面でも、標準パターンを採ります。
影響範囲が読み切れていない状態で短絡すると、「確認したつもりで確認していなかった部分」が残ります。問題が出るまで気づかない状態が続きます。
3周を経ることで、1周目に確認した範囲の「外側」が2周目・3周目で少しずつ見えてきます。修正の副作用として現れる問題が、影響範囲が想定より広かったことを教えてくれることもあります。広さが読めないときは、複数回確認するしかありません。
5つの条件に共通すること
ここに挙げた5条件には、共通の構造があります。
いずれも、問題の見落としのコストが高い局面です。
新規アーキテクチャは、見落としが設計全体のやり直しにつながります。根本変更は、波及の見落としが連鎖的な問題を引き起こします。前例のない領域では、何を見落としているかを事前に知る手段がありません。不可逆な決定は、見落としを直す機会がない。影響範囲が不明な変更は、見落とした領域で問題が起きます。
見落としのコストが高い局面では、周回を省略することがリスクになります。手間を省くコストより、見落とすコストのほうが大きいです。
採用を決めた後にすること
標準パターンを採ると決まったら、あとは手順どおりに3周回すだけです。
「この局面に標準パターンが必要か」の判断は、上に書いた5条件のいずれかに当てはまるかを確認することで済みます。当てはまれば標準パターン。当てはまらなければ、別の進め方が選択肢に入ってきます。
判断のたびにゼロから考えない。条件の確認に絞る。そのためにこの条件リストを作りました。実際の運用では、このリストを都度開いて照合する使い方をしています。