台本を仕切る監督:Content Director
ある日、同じ企画について三つの媒体で発信が動いていました。ブログには詳しい経緯を書いた記事、X(旧Twitter)には短い速報、Noteには背景をじっくり語る記事です。それぞれの下書きができあがってきたとき、困ったことが起きました。ブログでは「まだ検証中」と書かれている内容が、Xでは「うまくいった」と読める書き方になっていたのです。書いた担当が違えば、同じ出来事でも切り取り方が変わります。どちらも嘘は書いていません。ただ、並べて読むと矛盾して見えてしまう。
この組織には、原稿を書く役職(Copywriter)と、言葉づかいや温度感を整える役職(Brand Voice)がいます。どちらも自分の担当している原稿には責任を持っていますが、「複数の媒体をまたいで見たときに話が揃っているか」までは、それぞれの持ち場からは見えにくい問題でした。一つひとつの原稿は正しくても、全体を並べたときに筋が通っているとは限らない。この隙間を埋めるために置かれたのが、Content Directorという役職です。
段取りを組む役
Content Directorの仕事を一言でいうと、オーケストレーション(複数の担当や作業を、順番や役割分担を決めて段取りよく動かすこと)です。楽団の指揮者に近い立場と考えると分かりやすいかもしれません。指揮者自身は楽器を鳴らしませんが、誰がいつ、どのパートを、どの強さで演奏するかを決めます。
Content Directorも同じで、自分では原稿を書きません。Copywriterが書いた下書きを読み、「この内容はブログに向いているのか、Xの方が向いているのか」「今週はどの順番で出すのが自然か」を判断します。Brand Voiceが整えたトーンについても、一本の原稿だけでなく、直近に出した他の原稿と並べて違和感がないかを確認します。
なぜ書く人と分ける必要があるのか
原稿を書いている本人は、その原稿に集中しています。集中すること自体は悪いことではなく、むしろ良い原稿を書くためには必要な姿勢です。ただ、その分だけ「他に何を出しているか」への意識は薄くなりがちです。この組織では役職を分けることで、原稿の質を上げる担当と、媒体をまたいだ整合性を見る担当とを、意図的に分けています。
同じ人が両方をやろうとすると、どうしても「今書いている原稿」への熱が優先されてしまいます。結果として、過去に出した内容との矛盾に気づかないまま公開してしまう。三つの媒体の下書きがずれていた冒頭の出来事も、原因をたどればここに行き着きます。誰も嘘は書いていないのに、見る人が違えば全体像がずれる。Content Directorが最終的に原稿の並びと出す順番を確認する工程を挟むようになってから、こうしたずれは発見しやすくなりました。
指揮者が楽器を鳴らさないのと同じように、Content Directorも文章そのものを直接書き換えることはしません。台本を仕切り、誰が何を、どの順番で出すかを決める。書く人と整える人と束ねる人を分けておくことが、複数の媒体を同時に動かしながらも話を一本に保つための、地味だけれど欠かせない仕組みになっています。