監査担当のAIは「問題を見つけること」が仕事
実行担当のAIは「手を動かすだけ」でいい、と前の章で書きました。
実行役は作業に集中する。そして、自分の仕事を自分でOKしない。
ではその「OK出し」を担う監査役は、いったい何をするのでしょうか。この章ではその中身を見ていきます。
監査担当とは何をする役割か
監査とは、ある作業や成果物を第三者の目でチェックし、問題がないかを確認する行為です。
実行担当が「書く・作る」を担うのに対し、監査担当は「調べる・問い返す」を担います。
重要なのは、監査担当には自分で何かを作る権限がない点です。記事を書き直したり、データを書き換えたりするのは実行担当の仕事です。監査担当は問題を見つけ、それを実行担当または承認者に伝えるところまでが役割です。
なぜそう設計するのか。権限が重なると、チェックの精度が落ちるからです。「直せる立場」にあると、無意識に「直せばいい」という方向で物を見てしまいます。問題を発見する動きと、問題を解決する動きは、同じ主体に同時にさせると干渉します。だから分けます。
監査担当がする3つのこと
実運用で監査担当がやることは、大まかに3つに整理できます。
ひとつ目は、方針との照合です。
「この記事は、最初に決めたルールや方針から外れていないか」を確認します。実行担当は作業中に判断を重ねます。その積み重ねの中で、当初の方針からじわじわとズレていくことがあります。監査担当は完成した成果物と出発点の方針を並べ、ズレがないかを検証します。
ふたつ目は、抜けと矛盾の発見です。
前段の内容と後段の内容が矛盾していないか。必要な説明が欠けていないか。禁止されている表現や情報が混入していないか。こうした細かな点を、実行担当とは異なる視点から洗います。
実行担当は文章全体の流れを追いながら書いています。監査担当は流れを追う必要がなく、個別の問いに集中できます。この「構えの違い」が、見落としを補う仕組みになります。
みっつ目は、問題の記録です。
見つけた問題を「このくらいなら大丈夫」で握り潰さず、記録に残します。軽微なものも含めて出力し、承認者が最終判断できる状態にします。問題の大小を監査担当が独自に判断して隠すと、後で「なぜ通ったのか」が追えなくなります。記録する、という動作自体が、監査という役割の完結に含まれます。
「問題が出てくること」が監査の成功
ここで一点、認識として押さえておきたいことがあります。
監査担当から「問題ありませんでした、全クリアです」という報告が返ってきたとき、それをそのまま喜ばないほうがいい、という話です。
実際に何も問題がない場合もあります。ただ、「完璧な無傷の報告」が毎回続くときは、少し立ち止まって考えます。
本当に問題がなかったのか。それとも問題を見つけられなかったのか。あるいは、問題を見つけたけれど「書くほどでもない」と判断して省いたのか。
監査担当は「問題をあぶり出す装置」です。出力から問題が出てくることは、監査が正常に機能しているサインです。逆に何も出てこないときは、装置が機能していない可能性も疑います。
この感覚は、実際に運用してから気づきました。最初は「問題なし」が続くと「うまくいっている」と読んでいました。ところがある時点で、明らかに問題のある成果物に対しても「問題なし」が返ってきて、監査の粒度の設定が甘かったことがわかりました。
「絶賛GO」が警戒対象になる、というのはそういう経験からきています。
実行とは別に置く理由
監査担当は、実行担当とは別のAIに担わせます。
この連載では、実行と監査を同一のAIに兼任させていません。同じAIに「書いてから自分でチェックする」を頼むと、書くときに使った判断軸をチェックにも持ち込みます。チェックが通るように書いてしまう、という逆方向の歪みも起きやすくなります。
実行担当が「作業に最適化した動き」をするとき、その動きのままでは問題発見に向きません。問題発見には「疑って見る」構えが必要で、作業中の「進める」構えとは相性が悪い。前章で触れた「実行担当は自分を監査できない」という話は、能力の問題ではなく、この構えの問題です。
別に置くことで、それぞれが自分の役割に集中できます。
なぜ別のベンダーのAIを使うことが多いのか、別系統にすることでどんな問題が防げるのか、という点は別の章で詳しく見ます。ここでは「同一ではなく別に置く」という原則だけ確認します。
この章の整理
監査担当のAIは、問題を見つけることが仕事です。方針との照合・抜けと矛盾の発見・問題の記録という3つの動作で構成されます。
「問題が出てくること」は監査が機能しているサインで、「完璧な無傷の報告」が続くときこそ粒度を疑います。実行担当とは別に置く理由も、この構えの話です。問題をあぶり出す動きは、作業を進める動きと同じ主体では成立しにくい。だから分けます。