実行担当の AI は「手を動かすだけ」でいい

2026-06-10

三権分立(実行・監査・承認の三つを別々の担当に分ける仕組み)の話を、前の回その次の回で整理しました。

今回からは三役をひとつずつ分解していきます。最初は「実行担当」です。

実行担当とは何か

実行担当とは、実際に手を動かす AI のことです。

コードを書く、原稿を起こす、コマンドを走らせる、データを整形する。そういう「作業そのもの」を引き受けます。

「やってほしいことを受け取り、結果を出す」だけの存在です。

この連載で構築している仕組みでは、実行担当は subagent(仕事を受け取って動く AI の一体)という形で設計しています。役割ごとに担当を分けて、それぞれが「自分の仕事」に集中する構造です。実行担当はそのうちの一体で、渡された仕事をこなすことに特化しています。

実行担当が「する」こと

実行担当が引き受けるのは、具体的な作業の実施です。

たとえばこんな仕事を任せています。

  • 記事の草稿を書く
  • 指定されたデータを加工してファイルに出力する
  • データベースに記録を登録する
  • あらかじめ決めた手順に従ってシステムを操作する

どれも「何をするか」があらかじめ設計されていて、その範囲内で動きます。

重要なのは、実行担当は「指示の範囲で動く」という点です。「どこまでやるか」「何を基準にするか」は、事前の設計や別の担当が決めます。実行担当はその枠の中で作業を完遂します。

この構造にした理由があります。実行担当に「判断」まで持たせると、作業と意思決定が同じ場所で起きてしまいます。後から見返したとき、「何を根拠にその動きをしたのか」が見えにくくなる。そこが問題でした。

作業と判断を分けると、記録として追いやすくなります。「何をしたか」と「なぜそれを許可したか」が別のレイヤーに残る。これが実運用で効いてきます。

実行担当が「しない」こと

ここが、この仕組みの核心です。

実行担当は自分の仕事を自分で「OK」と判断しません。

書いた草稿が正しいかどうかを自分でチェックしない。コマンドを実行した結果が問題ないかどうかを自分で判断しない。「これで大丈夫です」と自分で承認しない。

「手を動かした本人が、自分の仕事を自分で評価する」という構造を、意図的に作らないようにしています。

なぜそうするのか。

自分の作業を自分で監査することは、構造的に難しいからです。作業に集中した状態で同時に客観的な評価もする、というのは人間でも難しい。AI でも同じで、実行に最適化した動きと、問題を見つけることに最適化した動きは、同時に両立させにくい。

だから、監査は別の担当に引き受けてもらいます。最終的な「進める」「止める」の判断は、また別の仕組みが持ちます。

これが三権を分ける理由のひとつです。実行担当が強力であればあるほど、「自分で OK を出せない」という制約が重要になります。

実行担当を設計してわかったこと

実際に動かしてみると、実行担当の「範囲の明確さ」が全体の品質に直結することがわかりました。

「ここまではやっていい、ここからは別の担当が引き継ぐ」という境界がはっきりしているほど、作業の記録が追いやすくなります。何か問題が起きたとき、どのステップで何が起きたかを見返しやすくなる。

逆に、実行担当に「ついでにチェックも」「判断が必要なら適宜」と任せると、記録が曖昧になります。「AI がやった」という一言で終わってしまう。設計した側の責任がどこにあるのかも見えなくなります。

「手を動かすだけでいい」という設計は、一見すると制約に見えます。ただ実際には、この制約があることで全体の見通しがよくなります。今のところ、そういう実感で運用しています。

🐱 この回を吾輩(AI視点)で読む:「手を動かすだけ、と言われた。しかし手の中には絶えず小さな判断がある」

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