専門用語は中学生語で並記する理由
専門用語の隣に、一言を挟む
このブログでは専門用語を書くとき、すぐ隣に噛み砕いた説明を添えることにしている。内部では「中学生語ルール」と呼んでいて、もうすっかり癖になった。
たとえば「エージェント」と書いたら、そのまま「AI に何かの役割を任せて動かす仕組み」くらいの説明を続ける。「パッシブ承認」と書いたら「一定時間内に差し止めが来なければ承認とみなすフロー」と一言添える。専門用語だけをぽんと置いて終わらせない、というのがルールの中身になる。
専門用語をそのまま並べると、読んでいる方の頭の中で像が結ばなくなる。試しに、噛み砕きを一切入れずに一文だけ書いてみる。
「このプロジェクトでは、subagent が SPEC をもとに本文を作り、QA ゲートを通す前に tone チェックをしている。」
わざとルールを外して書いた一文だ。骨格は分かる。誰が何をした、というのは読み取れる。でも、最初の「subagent」のところでもう止まる人がいるはずで、続けて「SPEC」「QA ゲート」「tone チェック」と知らない言葉が重なると、その一つ一つが指している中身がぼんやりしたままになる。文の構造は分かるのに、何をやっているのかは分からない、という妙な状態になる。
知らない言葉が続くと、人は「あとで調べよう」とは思わない。「これは自分向きじゃない」と判断して離れる方が早い。自分も読む側だった頃はそうしていたので、これは決めつけというより経験則に近い。
だから並記する。説明文を長くするという発想ではなく、言葉の直後に一言挟むだけでいい。
さっきの一文に並記を入れるとこうなる。「subagent(AI に一つの役割だけ任せた小さな担当)が、SPEC(何を作るかを書いた指示書)をもとに本文を作り、QA ゲート(公開前の品質チェック)を通す前に tone チェック(文体が想定どおりかの確認)をしている。」括弧が増えて読みにくくなった気もするけど、何をやっているかは追えるようになる。それだけで、知らない人がついてこられるかどうかがだいぶ変わる気がしている。
読みガナまで足していた時期があった
このルール、最初はもう少し過剰だった。漢字には読みを振り、英語の単語にはカタカナ読みを足す、というところまでやっていた。
読みを添えれば読者が分かるようになる、と思っていたけど、実際は違った。分かるようにはならなかった。ただ括弧が長くなるだけだった。
読みが分からないことと、意味が分からないことは別の話だ。漢字が読めなくても、意味さえ伝われば話は前に進む。逆は成り立たない。会議で他部署に説明するときも同じで、用語の読み方を丁寧に添えても、中身が伝わらなければ結局聞き流されてしまう。
そこに気づいたのは、まとめて読み返してみた時だった。括弧の中身が説明ではなく、ほとんど読みだけで埋まっている行がやたら目についた瞬間があって、これは違うと思った。読みが増えても、意味の説明が増えたわけじゃなかった。
そこから読みの方は落とした。今も残っているのは意味の噛み砕きだけで、それで十分だった。むしろ読みまで括弧に詰め込んでいた頃の方が、一文が間延びして読みにくかったと思う。
想定している読み手のこと
ここでいう「専門用語ばかりだと止まる読み手」というのは、具体的にイメージしている人がいる。IT リテラシーは高いけど、複数の AI を連携させて動かす領域は専門外の人。30 代前半から 40 代前半で、中小企業のシステム担当や社内 SE。複数のエージェントを誰がどう管理するか、というところで詰まっている、という設定にしている。
この人に向けて専門用語を並べても、「なんかすごいですね」で終わる。読んで感心はしても、自分でも試してみようとはならない。
普通の言葉で「こうしてみたらこうなった」と書いた方が、真似してもらえる方向に動く気がしている。少なくとも自分が読む側だったときは、専門用語だらけの記事より、そっちの方が手を動かしてみようという気になった。専門用語をそのまま使う記事は、書いた本人のすごさは伝わるけど、読んだ人が何かを持ち帰れるかというと、それとは別の話になる。
噛み砕こうとして分かったこと
このルールを作った動機、正直に言うと最初はそんなに読者のためではなかった。噛み砕いて書いた方が自分の頭の整理になる、という自己都合が先にあった。
やってみると、副作用の方が大きかった、というのが今の実感に近い。専門用語を噛み砕こうとすると、自分がその言葉をどこまで分かっているかが、いやでも見えてくる。
「パッシブ承認」を一言にしようとしたとき、最初うまく書けなかった。「何も言わなければ OK とみなす方式」と書いたけど、ニュアンスが違う。しっくりこないまま何度か書き直して、「差し止め期限を設けて、期限切れで承認」と書いたら少し近くなった。たった一言のはずなのに、そこに落ち着くまでが遠かった。今この記事の頭で使っている「一定時間内に差し止めが来なければ承認とみなす」も、そこから落ち着いた形だ。
新人に業務を引き継ぐとき、専門用語だけで説明を済ませてしまう上司がいるけど、あれは大抵、本人もその業務の中身をちゃんと分かっていない。噛み砕いて説明できないのは、理解が浅いサインだったりする。自分のブログでも、それは変わらない気がする。
専門用語のままさらっと書けてしまっているときは、その言葉に乗っかっているだけで、本当に分かっているか怪しいことがある。書き手が理解していれば、噛み砕いた言葉でも書けるはずで、書けないなら設計に戻る。今のところ、そういうチェックとして機能している。