専門用語は中学生語で並記する理由
このブログでは、専門用語を書くときに必ずすぐ隣に噛み砕いた説明を添えています。 たとえば「三権分立(さんけんぶんりつ)」と書いたら、そのまま「法律の世界で立法・行政・司法を分けるやり方を、AI に持ち込んだもの」と続ける。「subagent(サブエージェント、子エージェントのこと)」と書いたら、何のことか分からない人でもついて来られるように一言添える。
これがこのプロジェクトの小さなルールのひとつで、内部では「中学生語ルール」と呼んでいます。 今回はそのルール自体の話を書きます。なぜわざわざ並記するのか、という理由です。
専門用語だけ並べると、どこで読者が止まるか
試してみれば分かるんですが、専門用語が連続すると、読み手の頭の中で「文脈構築」が止まります。
たとえば、こういう文章を書くとします。
「このプロジェクトでは、Copywriter subagent が SPEC に基づいて本文を生成し、Brand Voice Editor が QA ゲートを通す前に tone チェックを実施しています。」
設計・実装を日常的にやっている側からすれば普通の文章ですが、AI 活用を始めたばかりの人が読んだら、最初の「subagent(サブエージェント)」の時点でもう立ち止まります。 次の「SPEC」、「Brand Voice Editor」、「QA ゲート」と知らない言葉が続くと、文の構造は分かっても、何をやっているのかが像を結ばない。
これは書き手の問題ではなく、読み手の「文脈の引き出し」がそもそも違う、という話です。 知らない言葉が 3 語以上続くと、人間の頭は「後で調べよう」ではなく「この記事は自分向きじゃない」という判断をします。 実際、私もそういう記事を読んでいた側の時は、そうしていました。
だから、並記する。 説明文として長くするのではなくて、言葉の直後に一言挟むだけ。 「subagent(子エージェント)」「cron(クーロン、決まった時刻に自動で動く仕組み)」「Kill Switch(キルスイッチ、差し止めスイッチ)」みたいな形で、読みカナと概念を括弧の中にまとめる。 それだけで、知らない人がついてくるコストがぐっと下がります。
誰のための並記か、というと
このルールを作った動機を正直に言うと、最初はそんなに読者のことを考えていませんでした。 「分かりやすく書いた方が自分も整理できる」という、もっと自己都合の理由です。
ただ、書いているうちに気づいたのは、「噛み砕いて並記する」という行為が、結果的に想定読者の幅を広げている、ということでした。
このブログの想定読者は、設計メモの中で「IT リテラシーは高めだけど、AI エージェント(複数の AI を連携させて動かす仕組み)周辺は専門外」という人として描いています。 30 代前半から 40 代前半の、中小企業のシステム担当や社内 SE で、AI 活用は始めているけど「複数エージェントを誰がどう管理するか」で詰まっている人、というイメージです。
専門用語を羅列すると、「なんか難しそう」で止まってしまう。 でも、噛み砕きを一言添えると、「ああ、そういうことね」と読み進めてもらえる。
そして「自分でも真似できそう」につながるのは、ここが大きいと思っています。 専門用語ばかりの文章を読んでも、「へえ、すごいですね」で終わるだけで、何かやってみようとはなりにくい。 普通の言葉で「こうしてみたらこうなった」と書いてあると、「自分もちょっとやってみようかな」という気持ちが動く。 そっちの方がこのプロジェクトの目的に合っているので、意図してそうしています。
書き手側の気づき:自分の理解度チェックになる
並記ルールを運用してみて、副次的に気づいたことがあります。 専門用語を噛み砕こうとすると、自分がその言葉をどこまで理解しているかが、ちゃんと見えてくるんです。
たとえば「パッシブ承認(パッシブしょうにん)」という言葉があります。 このプロジェクトで使っている仕組みで、「一定時間内に差し止めが来なければ自動的に承認とみなす」というフローのことです。 これを一言で噛み砕こうとした時、最初うまく書けませんでした。 「何も言わなければ OK とみなす方式」と書いたけど、なんかニュアンスが違う。 「差し止め期限を設けて、期限切れで承認」と書いたら少し近くなった。
このプロセスを経て、自分がその仕組みを設計した意図と、実際の動きと、言語化の精度が揃ってくる感覚がありました。 逆に言うと、専門用語のままさらっと書けてしまっている時は、自分もその用語に乗っかっているだけで、本当に分かっているかどうか怪しいことがある。
難しい言葉のまま書けてしまうことは、理解の浅さを覆い隠している場合がある、と気づいてから、並記ルールを「読者向け」ではなく「自分の理解チェック」として使うようになりました。 今のところ、この副作用の方が大きいくらいです。
書き手が本当に理解していれば、中学生語でも書けるはずです。 書けないなら、まだ理解が足りていないということなので、もう一度設計に戻る。 そういうフィードバックループとして、このルールは機能しています。