個人情報を出さない理由(匿名性原則)
名前も顔も出していない
このブログには、書いている人間についての情報が出てこない。名前も、顔も、勤め先も、年齢も、住んでいる場所も。
意図してそうしている。隠しているというより、選んでいる、という言い方の方が近い気がする。正体を隠して何か怪しいことをしているわけではない。
誰が書いているか分からないと信頼できない、という見方はあると思う。それは分かる。でも、このブログで個人の情報を出さない理由は、そこよりもう少し手前にある。
一番の理由は単純で、発信している主体が個人ではなく、プロジェクトの方だからだ。設計して動かしているのは自分だけど、ここに書いているのは「自分がどんな人間か」ではなく、「どう組んで、どう動かして、どこで転んだか」という記録そのものになる。書いているのは人だけど、主語は仕組みの方に置いている。
個人の話になった瞬間、再現できなくなる
逆の場合を考えてみる。
もし名前も経歴も出した状態で発信していたら、読んでいる側の頭の中に「この人だからできた話」という枠組みが勝手にできる。
そうなると次に来るのは比較になる。「この経歴があれば自分もできるかもしれない」「でも自分にはそこまでの環境がない」。ここで止まってしまう。
会社の新人研修で、講師の経歴ばかり長々と紹介されると、逆に中身が入ってこないことがある。あれと似た話なんだと思う。誰が話しているかに気を取られていると、話の中身そのものが後回しになる。
ここで公開しているのは仕組みの方だ。実行と監査と承認を、それぞれ別の担当に分けて動かす設計と、その設計を書き出した文書と、そこから出てきた失敗の記録。これは、組んだ人間が誰かに関係なく、自分でも試せるはずのものだと思っている。
失敗ログの方は、書いた人間の経歴とはあまり関係なく起きるように見える。誰が書いても、記録としての意味はそんなに変わらない気がする。だから経歴を出さなくても、記録としては成立する。個人の色を薄くしておいた方が、設計そのものの方を見てもらいやすくなる、という感覚がある。
肩書きや経歴を出せば、読んでいる側の納得は一時的に増えるかもしれない。でも増えるのは、中身を検証したうえでの納得ではなく、権威に対する納得の方だと思う。中身を確かめずに「まあこの人が言うなら」で流されてしまう方が、実はこわい。
一度出したら戻せない
もうひとつ理由がある。個人の情報は、一度公開すると基本的に取り消せない、という話だ。
消したつもりでも、どこかにキャッシュやスクリーンショットで残ると聞く。名前や顔を出してしまってから「やっぱりやめておけばよかった」と思っても、もう遅いことの方が多いらしい。
このプロジェクトの設計では、一度やったら元に戻せない操作は最小限にする、という考え方を根っこに置いている。個人情報の公開はその典型で、後から取り消せない側に分類される。
だから最初から出さない形にしてある。後になって「やっぱり出そう」と決めることはいつでもできる。逆はできない。最小限から始めておいた方が、選べる幅が広いままになる。
同じ考え方は他の場面にも顔を出す。取り消せない操作は一人で判断させず、二人以上で確認する。会社の稟議で、金額の大きい決裁ほどハンコを複数人分要求されるのと近い感覚だと思う。走り出したら途中で止まらない処理には、途中で止められる仕組みを必ず付けておく。アクセスに使う認証情報も同じで、一度漏れたら発行し直す以外にやりようがない。根っこは同じで、戻れない操作の方を先に絞っておく。
この基準に照らすと、名前や顔の公開は明らかに戻せない側に入る。一方で、記事の中身そのものは、後から書き直したり消したりできる側にある。取り消せるものと取り消せないものを、同じ重さで扱わないようにしているだけの話だ。
真似するときの引っかかりを減らしたい
まだ確かめられていない話が、もうひとつだけある。
このブログを読んで、自分でも何かやってみるかという気になった人がいたとして、その時に「でも自分はこの人と違うから」という感覚が邪魔をするのを、できるだけ減らせたらと思っている。これは今のところ仮説の域を出ていない。
個人の情報が見えていると、その人の背景も一緒に見えてしまう。見えると、比較がそこから始まる。自分にはそこまでの経験がない、環境が違う、という理由で手が止まることがある気がする。
プロジェクトの側から発信していると、「設計した人とこちらの関係」ではなく、「同じものを二人並んで眺めている」ような距離感になる気がする。記録を見ながら、自分ならどうするかを考えやすい位置、というか。
正直、この効果を測る方法はまだ思いついていない。比較する相手がいるわけでもないので、検証のしようがない、というのが実情に近い。実証できている話ではない。それでも、そういう意図を持ってこのルールを運用している。プロジェクトを始めた時点でこう決めて、そこから見直していない。
隠しているのではなく、こう設計した。それだけの話として、ここに残しておく。